2022入賞

優勝[文部科学大臣賞]

『Barcode train』

筑波大学附属駒場高等学校/東京都
堀内 亮さん/松丸 幸弘さん

第三位・ニコニコ生放送視聴者賞

『税金メーター』

淀商業高等学校/大阪府
濱 ゆひかさん/白石 直輝さん/野間 あいかさん

入賞

『My Life⇆里海PJ』

高松東高等学校/香川県
平井 聖晃さん/松原 由奈さん/吉村 愛美花さん

審査講評

中山ダイスケ

中山ダイスケ(なかやま・だいすけ)

アーティスト、アートディレクター/東北芸術工科大学学長 ◎審査員長

中山ダイスケ

今年の「デザセン2022」は、例年よりも応募作612案の全てがバラエティーに富んでいました。決勝に残った10作品も、地元の畜産のこと、地域の自然、学校の設備、近所の踏切、税金の学び方、未来の教育、子供の虐待問題など、視点やスケールがさまざまで、大変レベルが高かったと感じています。

また、今回の特徴として、思いつきをただ提案するだけではなく、さまざまな根拠や論拠を、データ収集やアンケートの実施などで証明してくれようとしたことが挙げられます。実はこの、仮説に対してエビデンスを揃えるという作業は、世の中の見えないところで、多くの専門の業者が活躍しています。最新のデータ・サイエンスを駆使し、ビックデータを回収するプログラムや解析のために多くの知力と労力が費やされ、莫大なお金も動いています。高校生によるデータ収集の行動を拝見しながら、新しい時代の幕開けを感じることもできました。

世界や社会全体が、新型コロナや戦争による不況に陥る中、自分たちの身の回りのことを自分たちで考えはじめたことで、「デザイン」というものの活用領域が広がっていることを実感できる大会でした。高校生が社会のシリアスな問題に対して、「アイデア」を武器に気軽な姿勢で、時には笑いながら向き合ってくれている姿は大変心強いですし、これから高齢者の一人となっていく自分自身の行く末を想像しても、今の高校生たちが創り出す柔らかな未来には期待しかありません。

田村 学

田村 学(たむら・まなぶ)

國學院大學人間開発学部初等教育学科教授

田村 学

新型コロナウイルス感染症が全世界に蔓延する中、私たちは容易に解決しえない課題が世の中には存在していることを再確認しました。そして、その解決のためには異なる多様な他者が力を合わせ、知恵を出し合いながら、新しいアイディアや発想で立ち向かっていかなければならないことも実感しました。そのためにも若い世代の柔軟な思考力やアクティブな行動力、豊かなコミュニケーション能力が欠かせないのだと思います。デザセン2022の決勝大会に審査員の一人として参加する中で、そのことを強く感じるとともに、その感覚は次第に確信へと変わっていきました。

地域や日常生活の中にある問題を取り上げ、その解決に向けて真剣に取り組む姿がありました。学校や部活動の中に存在する課題の解決に向けて、仲間と力を合わせて活動する姿がありました。様々な立場から社会を捉え、誰もが豊かに暮らしていける社会づくりについて考える姿がありました。どの取組も若い世代の皆さんならではのチャレンジだと感じました。こうした探究を、国内の多くの高校生が取り組んでいることに強く感銘を受けるとともに、期待の気持ちも大きく湧き上がってきました。

これからはその若きエネルギーを存分に発揮して、活動を通して様々な人と関わること、多様な情報を豊富に収集すること、様々な手法で情報を分析したり整理したりすること、自らの考えを外部に発信したり新たな行動としたりすることなどを期待したいと思います。

これからの社会は生涯にわたって探究し続ける「生涯探究社会」がやってくるでしょう。そうした社会では、自分自身が未来社会を創造するのだと強く自覚することが欠かせません。そんな高校生が日本全国にたくさん育っていることを嬉しく感じた一日でした。

大橋マキ

大橋マキ(おおはし・まき)

IFA認定アロマセラピスト/一般社団法人はっぷ代表

大橋マキ

昨年に続き、デザセン決勝大会に審査員として参加させていただきました。

新型コロナ感染対策の最中だった昨年は、コミュニケーションを扱った提案が多かったのに対し、今年は世の中の根本的な「仕組み」に課題を発見したチームが多く見られました。アフターコロナの世界が急速に転換していく経験をした学生さんたち。思考停止に陥りがちな社会の根っこの部分にも果敢に働きかける発想転換力を手にした彼らに頼もしさを感じました。他方で、身近な日常や多様性に課題を発見したチームも見られました。デザセンの魅力はなんといっても、普通科から農業、商業、工業高校など幅広い学校が参加する点です。畜産を活性化する特産品開発から児童虐待、海洋汚染、学校設備を一新する提案、開かずの踏切を楽しくする工夫、色覚体験ゲーム、女性アスリート、探究型学習の原点に立ち返る提案、税金を身近にするアプリ、地震時に自動で開く扉の開発まで、非常に幅広い分野で選りすぐりの提案ばかりでした。

いずれも小手先では解決できない難題に対し、柔軟な発想や粘り強い模索、それぞれの強みをもって突破していく力に頼もしさを感じます。上位に輝いたチームの皆さんは、解決策の具体性と実行性、完成度の高さが流石でした。課題解決のプロセスで地元企業を巻き込むほか、周辺課題も同時に解決する波及効果まで練られており、高校生の社会を俯瞰する力に驚かされました。

そして、優勝の『Barcode train』。デザセンらしい遊び心から生まれた楽しい提案でしたね!アイデアするわくわくの原点に立ち返らせてくれました。中山ダイスケ学長のお話にもありましたが、「正解のないかもしれないことに対し、きょろきょろとよそ見をしながら、楽しく社会を変えていって欲しい」。高校生に希望を見せていただいた決勝大会でした。素晴らしい熱戦をありがとうございました!

竹内昌義

竹内昌義(たけうち・まさよし)

建築家・建築設計事務所『みかんぐみ』共同代表/エネルギーまちづくり社代表取締役/一般社団法人パッシブハウスジャパン理事/東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科 教授

竹内昌義

デザセンに期待すること

デザセンに関して思うことですが、ここにどう考えたら良いかのヒントを書いておこうと思います。

まず、暮らしの中での違和感を大事にしましょう。「あれ、なんか変だな」と思うことをメモっておくといいと思います。あと、社会の成り立ちを勉強しましょう。どうして、今これがそうなっているか、なんでこういう制度なのか。きっと意味があって、歴史があるはずです。だが、それは現時点からは違うかもしれません。そこにきっと何かを発明する、すなわちデザインの芽の可能性があると思います。時代は激動の時代を迎えています。昨日まで常識だと思っていたことが突如変わります。日本が特に遅れていると言われているのは男女平等や人権についてです。他にも気候変動に関しては、「まだ温暖化していないんじゃないか」という人もいたりして、どれだけずれているんだかと思います。

デザインって、厳格で厳しいというより、クスッと笑ってしまうようなものだと思うんです。「こうしなければならない」、「絶対にこうして」というものは長続きがしません。デザインって楽しく、ウキウキ、クスッと笑えるものだと思うんです。それでそれが誰かの幸せにつながっていることだと思うんです。デザインって概念が広がっていて、モノではなくコトになってきているように思います。いろんなデザインがありますが、考えすぎるとこんがらがってわかりにくくなるので注意が必要です。

柚木泰彦

柚木泰彦(ゆのき・やすひこ)

東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科教授、高大連携推進部長

柚木泰彦

今年度からいよいよ全国の高等学校で「総合的な探究の時間」が全面実施されています。そのような中、デザセンは「探究型学習の成果発表全国大会」として、成果の発表に適した時期での開催となって2年目を迎え、今年も600を越えるチームからの応募がありました。初秋の1次審査にはじまり、2次審査、決勝大会までの過程で、皆さんが着眼した課題に対するアイデアをどのように育んできたのかを見守りつつ、それぞれの深化を楽しみにしてきました。

決勝大会では、出場したすべてのチームの提案が甲乙つけ難い充実の内容でした。皆さんの提案をあらためて見渡すと、当初のアイデアを起点にどのように膨らませてきたか、さらなる深掘りや軌道修正、新たな視点の発見、大切にしてきた価値の醸成など、さまざまな思考と活動の軌跡を垣間見ることができました。また、各校でのICT環境がかなり整ってきたこともあるでしょうか、決勝のプレゼンテーション動画は、高校生らしいさまざまな創意工夫が見られ、表現が多彩なことに驚きましたし、たいへん見応えがありました。

そして、こうしたアウトプットに注目するだけではなく、何よりも、皆さんが辿った試行錯誤のプロセスから得た気づき、学びを通して、皆さん自身がどのくらい「成長」したのかにこそ大きな価値があると思います。これらの経験は、今後、進学してからも、社会人になっても生涯、学び続けるための原動力、一生の財産となるはずです。これからも若さ溢れる感性で今日の社会課題に向き合い、あるいは未来に起こりうる課題を見透し、世の中の皆が笑顔になれる方法を考えてチャレンジを続けてほしいと願っています。

 

矢部寛明

矢部寛明(やべ・ひろあき)

認定NPO法人底上げ 理事長 コミュニティデザイナー/東北芸術工科大学 コミュニティデザイン学科 講師

矢部寛明

僕にとっては5回目のデザセン参加となりました。5回目となると慣れてきそうなものですが・・・。デザセンは慣れるどころか、前日眠れなくなるほどテンションが上がってしまいます。「どんな発表があるのかな?」「高校生緊張してるかな?」「質疑うまくできるかな?」そんな思考が頭の中を駆け巡ります。当然、今回も多くの気づきと刺激を与えてくれました。

どんな時代にも、生きている限り、より良い社会を望む限り、課題は出てくるものです。参加した全ての皆さんは、その課題に気がついた。気がついただけではなく、課題解決のアイディアまで考え出した。中にはアクションまで起こした高校生もいる。本当、それだけですごいことです。尊いことだと思います。

僕はよく学生に「なんで先生はそんなに社会に怒っているのですか?」と聞かれます。怒って当然だと思っています。それは社会はまだまだ未熟で課題に溢れ改善の余地があるから。人ってまだまだできると信じているからです。その僕の思いと、デザセンに参加してくれる皆さんの思いは同じだと思っています。「まだまだできる」「こんなもんじゃない」そんな積み重ねが社会のうねりとなり、より良い社会を構築していくのだと思います。そう考えるとデザセンはゴールではなさそうです。もしかすると、デザセンはスタートラインなのかもしれません。参加したすべての皆さんがさらに力をつけて、社会をよりよくするチェンジメーカーとして活躍することを切に願います。

僕も、、、負けられません!!

石沢 惠理

石沢 惠理(いしざわ・えり)

東北芸術工科大学 芸術学部 美術科 総合美術コース 専任講師

石沢 惠理

デザセン決勝戦という晴れの舞台で、みなさんの力のこもったプレゼンを拝見して、その熱量に圧倒されました。

今回のプレゼン内容では、物事を俯瞰してとらえようとするチームが多いことが印象的でした。例えば、自分の通っている学校は、誰がどのように運営しているのだろう?また、税金にはどんな種類があって、何に使われているのだろう?といった、組織や制度といった「仕組み」から考えようとする視点は、社会をとらえる際のヒントになると思います。また、どのチームも、プレゼン映像がわかりやすく工夫されているだけでなく、見る人を楽しませようとする遊び心が散りばめられているのを感じました。昨年に引き続きzoom開催となった今回も、画面の先で見ている人を思いながら制作されたことがしっかり伝わってきました。

参加してくれた高校生のみなさんは、紆余曲折しながらも1つの物事に向きあってこられたと思います。その粘り強さは、これからの人生の宝物になると思います。今後は、そこに自分自身が「ワクワクする」ことをプラスしてほしいな、と思います。たくさんの物事を知ること、頭の片隅で常にアイデアを練ってみること、思いついたことをキャッチできる心の感性を育てること、そうした日常の積み重ねの中で、ふとした瞬間に「発想」が生まれるのではないかと考えています。

そして、友人、先生、ご家族のみなさん、地域の方々、いろんな人を巻き込んで、社会を動かす力になることを期待しています。