お知らせ

多様性を求め、新たなチャレンジへ|水野里奈 教諭

デザセンは2018年度で25周年を迎えます。「社会をデザイン」する視点に着眼した大会として開催してきた四半世紀の成果を、指導教員や当時出場した高校生へのインタビューを通して発信していきます。

—————
 
インタビュー[4]でご紹介するのは、神戸市立科学技術高等学校の水野里奈先生です。インタビュー[3]でご紹介した新山先生に、高校時代にデザセンの指導をうけて2011年に決勝大会に出場。現在は、母校のデザセン指導教員となりました。「デザセンは企画書を提出してからがスタート」と語る水野先生。デザセンで「学ぶ立場」と「指導の立場」の両方を体験した視点からお話しいただきました。

人生の軌跡を描きだした、はじまりのデザセン

『軌跡のアーカイブ』を発表したときに会場の観客に配布したパンフレットも一つひとつ自作しました。

私たちが『軌跡のアーカイブ』(デザセン2011 第三位)を提案したのは高校3年生の時。建築関係の仕事をしていた父に憧れて建築の勉強をしていましたが、自分が何をしたいのかはいまいちつかめていなかった時期です。当時はアルバイトばかりしていたので、何か高校生らしいことをしたいなと思い参加を決めました。チームは2人とも後輩で、同じように指導教員の新山先生に集められたメンバー。あまり意欲的ではありませんでしたね。

意欲が上がっていったのは、指導の中で先生にかけられるちょっとした言葉が心に響き視野が広がり始めてからでした。この提案は「人の動いた軌跡」をグーグルマップで抽出し線で描いてみたときに「かわいいなぁ」と感じたことから生まれたアイデアです。人が歩んだ人生を視覚化してつなげる発想を得た瞬間は本当に嬉しくて、新しいことに取り組む面白さを感じるようになっていきました。

デザセン決勝大会では、発表会場で他校の提案を見て、そのアイデアの良さがすぐに伝わるものもあれば、「なぜこの作品が?」と疑問に思うものもありました。しかし本番のプレゼンを見ると、その疑問は「こういうものの見方もあるんだ!」という驚きに変わりました。同じ高校生でも様々な考え方、ものの見方をする人がいて、それを精一杯伝え合う場所で、自分にとってプラスになる部分を見つけようという気持ちが自然にわいてきたのだと思います。あの臨場感の中、肌で感じた経験は社会人になった今でも礎になっていると感じています。

 

教師の想い、生徒の気づき

写真左から新山浩先生、水野里奈先生。学校の廊下にて。

教師になったのは、新山先生から「教育の道はどうや?」と言われたのがきっかけです。確かにものづくりも人に教えることも好きだったので、教師という仕事に就ければ自分がもっと輝けるのではないかと思いました。今考えると、新山先生は私が「何かしたいけど何もできない」とムズムズしていたのを察知していたのかもしれませんね。その状態で3年生を迎えていたので「何かさせたい、何か気づかせたい」と思いデザセンを勧めてくれたのではないでしょうか。

私が教えている生徒たちの中にも、当時の私のように進路で悩んでいる子が何人かいます。教師が、もう一歩踏み込めたら伸びるのに、と思うような子。そんな生徒にはデザセンでもっと悩ませたいな、と思います。悩みが深いほど気づきが増え、その分成長するのが分かっているからです。

 

出場経験から生まれた、指導の視点

デザセン2016決勝大会での『味来缶』発表風景。思い出の味を未来へ紡ぐタイムマシーンのような缶詰のアイデア。

私が新山先生から引き継ぐ形で指導、引率した『味来缶』(デザセン2016 準優勝)は、ひらめきを形にする新山先生の指導の特徴を残しつつ、私なりの取り組み方を交えて完成させた提案です。私はとにかく外に出て行動させます。実体験を持った人の話を聞き、実感を得ることが提案の厚みにつながるので、プレゼンシナリオも空想ではなく現実的な話を織り交ぜました。『未来缶』があった方がいいと言っている人が本当にいて、その想いを知っているという点で、夢だけでなく審査員を納得させようという意欲も詰まったプレゼンになったと思います。

決勝大会まで進んだ子たちは、デザセンの雰囲気を感じ、自分たちの提案がこれだけ素晴らしいと体感することができます。難しいのはそこまでいかなかった作品への取り組み方。一次審査で通らなかったらそこで終わりではないと思うんです。デザセンの目標は決勝大会に出ることではなく、その提案に誇りを持ってどれだけ広げていけるかを考えさせ、やる気にさせること。それが私自身のやりがいでもあり、生徒が成長できるポイントでもあります。

他のコンペティションと違い、デザセンは「企画書を提出してからがスタート」という特性があるので、教員はそれを把握して指導していかなければなりません。新山先生のような視野の広さはまだありませんが、こう言い切れるのは私が高校時代にあの場にいたという経験が大きいですね。

 

デザセンならではの多様性を求め、新たなチャレンジへ

当校で参加しているコンペの多くは、1人で考え図面を書き評価されるかどうかで決まりますが、デザセンは1人の疑問をみんなで共有することで広がり展開していきます。色々な視点から見ることで意識付けが変化したり、さらに疑問が生まれたり。話し合いを通して生徒が主体的に展開していける点は、他のコンペではあまり見られません。現在デザセンにメインで取り組んでいる都市工学科、科学工学科の2学科に加え、機械工学科や電気情報工学科の生徒も交えたらより刺激的な時間を持てると思うので、今後チャレンジしてみたいですね。

高校生の時に自分とは違った視点から1つのものを見て視野を広げ、考えを共有し、未来の社会や新たな生き方につなげていく。多様性はデザセンという取り組みにとって重要なキーワードになるんじゃないかと思っています。

————–
取材日:2018年3月6日
ライター:上林晃子
写真:志鎌康平

Facebookでコメントする

このページのトップヘ