2017入賞

『はーとふる通帳』

優勝(文部科学大臣賞)・市民賞・高校生賞・ニコニコ生放送視聴者賞

『はーとふる通帳』

九州産業大学付属九州高等学校(福岡県)
平松伽羅(3年)/柴田智帆(3年)/高本真裕(3年) 占部政則 教諭

『すてきな ス☆テッキ』

第三位

『すてきな ス☆テッキ』

谷地高等学校(山形県)
槙悠美さん(2年)/井上愛唯さん(1年)/小松那奈さん(1年) 庄司奈津子 教諭

『工芸クエスト』

大学生賞

『工芸クエスト』

高松工芸高等学校(香川県)
筒井桃子さん(2年)/濱谷侑亜さん(2年)/水野志映さん(2年) 竹中育美 教諭

『職人一首』

入賞

『職人一首』

宮城野高等学校(宮城県)
板橋実紅(3年)/小島愛美(3年)/菊地陽菜(3年) 川崎浩介 教諭

『傍観者革命』

入賞

『傍観者革命』

早稲田大学本庄高等学院(埼玉県)
大葉響(3年)/中田共哉(3年)/尾崎貫太(3年) 上田太郎 教諭

審査講評

中山ダイスケ

中山ダイスケ(なかやま・だいすけ)

アーティスト、アートディレクター/東北芸術工科大学教授 ◎審査員長

中山ダイスケ

未来はデザインできる人々の時代。 楽しいアイデアを豊富に生み出せる大人に。

今回の決勝大会では、優勝した九州産業大学付属九州高等学校『はーとふる通帳』と、準優勝の有田工業高等学校『インターホンシステム「Now A House」』の2案が、説得力やプレゼン資料の作りこみ、そしてそのアイデアで誰を幸せにしたいのかという狙いに秀でていました。

インターホンシステムの提案は、不在がちなご家庭と宅配業者との間での利便性が高い提案でしたが、通帳の提案は、貯金という行為に人生があり、通帳は生きた証であるとしたプレゼンが強烈でした。審査の票や各部門賞がこれほど1つのアイデアに集まることも過去には無かったのですが、多世代のみなさんに通じた素敵なアイデアだったのだと思います。

毎年全国から応募されるアイデアの中には、いじめやSNS問題、少子高齢化などのテーマ設定が多く、解決方法まで似ているものが数百とあります。そこに世代性や時代性を感じると同時に、全国の高校生たちが、皆同じような問題意識やアイデアを持って生きていることに驚きます。ですから、そんな似たようなアイデア1113案の中から、最終の10案に残るということは、胸を張れることなのです。

入賞した木曽青峰高等学校『もしも僕がマフラーに恋した半袖Tシャツだったら』は、LGBTQという繊細な問題をテーマにして、誰もが考えやすい「何か」に例える工夫をしていました。また早稲田大学本庄高等学院『傍観者革命』の提案は、解決策までには至ってはいませんが、いじめる側、いじめられる側の2択ではなく、傍観者といういじめの状況を包み込むシステムそのものに何かを言おうとしたと感じます。また高松工芸高等学校『工芸クエスト』や、興陽高等学校『T tradition(伝統) S skill(技術) C culture(文化)』の、伝統技術や文化を丁寧に伝えていこうとする提案と、山形西高等学校『VRゴーグルで見つめるWORLD』の食糧難の国の状況を実感するための最新のテクノロジーを使う提案まで、様々な幅がありました。これまでの時代は、武力を持った人、お金を持った人、生まれに恵まれた人などが作ってきましたが、これからは、既存のものごとを組み合わせて新しいものを生み出せる、デザインできる人々の時代です。未来はAIが人間の職業を駆逐すると言われている昨今ですが、AIも含めて新しい社会を人間らしくデザインできれば、私たちはこのまま、おもしろい進化を遂げるのではないかとも思います。

みなさんもこれから進学や就職を前に、自分ががんばったことを数値化していくと思います。今は主要5教科が中心かもしれませんが、10年後20年後は今の主要5教科では無くなっているかもしれないほど、主体的探究型学習やプロジェクト型授業の導入が教育の中で叫ばれ、教育の姿もアイデア思考にかわろうとしています。

デザイン選手権への取り組みは、高校生のみなさんにとっては難しかったと思いますが、そうした流れに先んじて、デザセンという1つのデザインされたアイデアイベントに取り組んだことは、みなさんの将来にきっと役立つと思います。

この選手権を四半世紀にわたり開催している理由は、若い人たちには未来を明るく語る力があるからです。今回、みなさんが私たちに提案してくれた気づきやアイデアは、これから私たちが見つめていくべき未来への希望です。ぜひこのまま、楽しいアイデアを豊富に生み出せる大人になってください。

奥平博一

奥平博一(おくひら・ひろかず)

学校法人角川ドワンゴ学園 常務理事/N高等学校 学校長

奥平博一

“知識”だけではなく、“知恵”と“好奇心”が必要。

「高校生デザインコンテスト」凄いなー。なんて思っていた大会を実際に見るだけでなく、なんとその審査員をやらせて頂けることになって、この日を心待ちにしていました。
普段から多くの高校生に接していますが、何といっても参加された高校生の皆さんの“笑顔”が素敵でした!
ステージ上での、実社会との関わりを重視し、身近な地域や現実の社会にある問題の解決に向けて取り組んでいる姿。生活現実にある問題を解決しようという姿、自分自身の将来や地域社会の未来について真剣に考えている姿、実社会における自分の存在や役割などについて考えている姿。どのチームも本当に素敵でした。今回の大会を通じた経験は、必ず実際の社会で役立つ能力を育てていく、きっかけになったと思います。
これから皆さんに必要なことは“知識”だけではなく、“知恵”と“好奇心”です。“知恵”とは、経験を通し“知識”を応用して自分自身で考え、新たなアイデアや価値を付け加えて実践に役立てる能力です。経験をするには、常に好奇心をもっていることが必要です。
ニコニコ生放送をご覧いただいた皆様からの各学校への応援も素敵でしたね。多くの応援してくれる仲間がいることは本当に素敵でした。
惜しくも入賞を逃したチームも、この大会の経験値としては同じです。3年生の人は、新たな進路へ挑戦。1年生、2年生の人は、ぜひ来年も挑戦して頂くことを願っています。

柿原優紀

柿原優紀(かきはら・ゆうき)

編集者・ローカルイベントディレクター/tarakusa株式会社 代表取締役

柿原優紀

自分たちらしい発想を大切にして前例を越えてほしい。

初めて審査員を勤めさせていただきました。決勝大会は、ステージ上から伝わってくる情熱、緊張、失敗から、出場者たちの「伝えたい」という気持ちの大きさを感じた1日。そして、ステージ裏での涙や笑いも含めたすべてが、『デザセン』の魅力だと思いました。そして何より、世の中に「ソーシャル・デザイン」なんていう言葉が登場する随分前にこの選手権大会が始まり、続いていることに改めて驚きました。
私自身も大学でデザインを学び、現在はいわゆる社会課題解決やまちづくりといったことに取り組む企画や制作も行っていますが、企画をつくるために大切なのは普段の暮らしのなかで人々の違和感や不安、不満を見逃さないように観察すること、さらに自分自身の「こうだったらいいな」を「どうすればできるかな?」に繋げて考えることだと思います。
最後に、これからの出場者に伝えたいこと。それは、若くて突き抜けた自分たちらしい発想にこだわり大切にして欲しいということです。先人たちから習うことも重要ですが、どうせなら自分と仲間でできる面白いこと(私たちが驚くようなこと)をとことんやって欲しいと思います。そして、私たちが今思いつく提案の多くには(たとえ私たち自身が「これは発明だ!」と思ったとしても)、たいていすでに世界のどこかでの取り組みや開発の前例があったりするものです。しかし、そういう事例はむしろ最適な教材だと思って調べ尽くし、学び、自分たちらしく越えていきたい。それぞれの世代がそれぞれの時代のために働きかけるからこそ、新しいデザインが生まれ、いつも人をワクワクさせるのだと思います。

志村直愛

志村直愛(しむら・なおよし)

東北芸術工科大学教授

志村直愛

丁寧な調査や裏付けで必要性や説得力を強化した提案が入賞

今年もたくさんの高校生たちが、叡智を振り絞って新たなデザイン提案に挑戦してくれました。審査員2年生の私もプレゼンする皆さんと同じくらいドキドキしながらこの日を楽しみにしておりました。
今回の一次審査、二次審査、決勝大会と成長段階を見てみると、入賞した提案は、鋭い疑問や強い正義感などの直感的なセンスもありますが、やはり丁寧な調査や裏付けでその必要性や説得力を強化。そして問題解決の手法やアイディアを、おそらく何度も何度も組み立ててはバラしながら、これで本当によいのかを徹底的に検証。その想いを多くの人に伝え共感してもらうためにいかに表現するかに実に長い時間をかけて準備、制作している姿勢が実感できました。この飽くなき挑戦意識と、頭と体を動かす行動自体が、プロフェッショナルと変わらないデザインの工程そのものだなと思います。
そんな大変な労力を経てまで、遠く山形の地に乗り込んでくる皆さんのモチベーションってのは、一体何なのでしょう?持ち前の正義漢?デザイン技術?イベント大好き度?審査されるドキドキ感?おお、それも大事だ!(笑)これらは人それぞれ何でもいいと思いますが、想いをしっかり形にする楽しさを忘れずに、その気持ちを大事に仲間と持続させながら完成を目指してもらえればと思います。私たちも、挑戦してよかった!と思っていただけるよう、しっかり心の準備をして、来年の挑戦を待ちたいと思います。See you soon!

マエキタミヤコ

マエキタミヤコ(まえきた・みやこ)

クリエイティブエージェンシー「サステナ」代表

マエキタミヤコ

「調べ・考え・創り・伝える」見事な思考を披露。

社会を変えたいと思ったことはありますか。
いつなぜそう思いましたか。そのときのことを覚えていますか。

夢いっぱいだった子どもがやがて大人となり「社会にも出たことない高校生に、社会を変えるデザインが提案できるのかな」などと思ったりしています。でも社会に出たことないからこそ、ストレートで、怖いもの知らずで、屈託なく大人を越える可能性があるのです。忖度や、稼ぎに縛られることなく、自由に社会を変えるアイディアを考え、壇上で発表する自由は、ねたましいほど爽快です。学生という安全地帯にいる特権を最大限活用し、大人たちを挑発、叱咤激励し、この世の理不尽さ、不合理、倫理的でないものに、しっかり取り組んでくれています。今年の決勝進出の10校、「調べ・考え・創り・伝える」見事な思考を披露してくれました。

九州産業大学付属九州高等学校『はーとふる通帳』は、無機質に思われがちなお金の動きに、家族の思いやりや思い出を書き込もう、というアイディア。とても思想的、過激、本質的で素敵です。この通帳のセンスが行き渡れば、何百億円稼いで租税回避するグローバル企業に憧れる人もいなくなるでしょう。
有田工業高等学校『インターホンシステム「Now A House」』は、インターホンと宅配員のタブレットをつないで再配達の削減に取り組み、谷地高等学校『すてきな ス☆テッキ』は、「オシャレな福祉器具はむしろ褒めよう」という発見と、その普及のためのデコレーション・サービスの創出を提案し、高松工芸高等学校『工芸クエスト』は、日本の伝統工芸をキャラ化することで工芸そのものへの認知と理解を高め、松山工業高等学校『そうだ、おへんろに行こう!』は、「お遍路さん」を四国の「お接待文化」を伝える機会ととらえ直し、山形西高等学校の『VRゴーグルで見つめるWORLD』は、VRゴーグルで世界の貧困問題を引き寄せてリアリティを持たせ、宮城野高等学校『職人一首』は、職業人かるたを作って、幅広い年齢層へキャリア教育の可能性を広げ、早稲田大学本庄高等学院『傍観者革命』は、「傍観者の、いじめに立ち向かうチカラ(心・情報・環境)を養う」カードゲームを試作し、木曽青峰高等学校『もしも僕がマフラーに恋した半袖Tシャツだったら』は、文学的にLGBTQの知識と教養が身につくマイノリティ・センス・カードゲームを開発し、興陽高等学校『T tradition(伝統) S skill(技術) C culture(文化)』は、日本の伝統生活技術を学ぶ教科を特別に設けようと提案しました。個のアイディアと多様性のチームワークを行き来するデザセン決勝。今年散らした火花もとびきり美しく、素晴らしいものでした。出場された高校生のみなさんはもちろんですが、ここまで支えていらした先生たち、それをさらに支えた学生諸君、事務局のみなさんに、最大限の敬意を表します。