2019入賞

『アカ墓地』

優勝[文部科学大臣賞]・大学生賞

『アカ墓地』

九州産業大学付属九州高等学校(福岡県)
メンバー:鶴田 英果さん(2年)/福山 月乃さん(2年)/永松 紫杏さん(2年)

『スマホ体操』

第三位

『スマホ体操』

神戸市立科学技術高等学校(兵庫県)
春 凛太郎さん(3年)/宮下 昇太さん(3年)/西岡 優人さん(3年)

『えっ!GOOD!』

ニコニコ生放送視聴者賞

『えっ!GOOD!』

伊奈学園総合高等学校(埼玉県)
渕本 そらさん(2年)/三輪 汐織さん(2年)/田中 晴菜さん(2年)

『チルビレ』

入賞

『チルビレ』

仙台二華高等学校(宮城県)
山口 優歌さん(1年)/池田 綾音さん(1年)/佐々木 和奏さん(1年)

審査講評

中山ダイスケ

中山ダイスケ(なかやま・だいすけ)

アーティスト、アートディレクター/東北芸術工科大学学長 ◎審査員長

中山ダイスケ

「個人がアイデアを世界に発信できる時代。工夫を行動に移せれば、世界は平和になると思う。」

2次パネル審査では高校名を隠して審査をしていますが、絞っていくと結果的に常連校が多く残ります。そんな中、初出場の高校(栃木農業高校、本郷高校、伊奈学園総合)があり、発表も面白く、今年度応募された1,010チームから、出場した10チームを選んでよかったと思います。

栃木農業高校「道普請が日本の未来をデザインする」や本郷高校「日本のこころ温団化」など、人との関わり合いを作り出そうと考えたアイデアには、かつて日常的にあった風景を思い出させるものであり感動しました。また、個人的に好きなアイデアは松山工業高校の「折り紙をチームスポーツに」です。チームを組んで大きな折り紙でツルを折り、スピードと美しさを競う大会というユニークなアイデアでした。実際に大会を開催しているシーンを発表していましたが、誰もが知っている折り紙に工夫して、より面白く、楽しさを共有できることにしようと考えられたアイデアはとてもデザセンらしいもので、ワクワクしました。

現代においてデザインはデザイナーの専門的なことだけではなく、様々な人がアイデアを世界に発信できる時代です。普通の人が、普通に考え、工夫を行動に移せれば、世界は平和になると思います。高校生には、好きな世界、好きなことだけではなくて、不満に思うことを勉強の材料にしてほしい。できれば、そういうことを仕事にしてほしいと思うこともあります。それは、不満の解決が世界をよくしてきたからです。出場した高校生の皆さんには、デザセンに出場した体験が、これから生きていくなかでのアドバンテージになることを願っています。

藤原和博

藤原和博(ふじはらかずひろ)

教育改革実践家/元リクルート社フェロー/杉並区立和田中学校・元校長科主宰

藤原和博

「プログラミングに強いやつを交えて、実際に作っちゃおう」

「個人的には、神戸市立科学技術高等学校『スマホ体操』の男子3人によるプレゼンが、いかにも男子高校生らしくてよかった。高校生を子にもつ親のすべてが気にしているスマホの長時間視聴。その問題に対し、簡単な体操を朝昼晩にやろうというシンプルな提案だったが、プレゼンが音楽とダンス風の体操だけでなく、筆の描き文字でのめくりを用意するなど構成に工夫があり、圧倒的に会場にウケた。スマホで疲れたら体操をやろうというだけでなく、逆にスマホを持ったまま、体操の動きでゲームのように経験値が上がり、全国の高校生と『スマホ体操』甲子園が行えるようなプログラム開発とセットなら優勝したかもしれない。 優勝は、九州産業大学付属九州高等学校『アカ墓地』だったが、この企画は非常に高校生らしく、女子3人によるプレゼンもうまかった。まず、ネーミングがいい。Twitter、Facebook、TikTokとSNSで複数のアカウントを所持している高校生が多い中、もう使用しないアカウントのお葬式を行ってネット上の仮想の墓地にしまい、お墓参りができるようにする企画だ。「かつての自分が何を思い、何をつぶやいたかを知ることができる」というメッセージが審査員の心を打った。ただし、課題はある。別々のプラットフォームでつぶやいたメッセージを取りまとめるには技術的な詰めが必要だ。来年、この問題を解決してくれる(プログラミングに秀でた)オタク男子を交え、アプリを完成させてデザセンに臨めば、もしかしたら投資家(エンジェル)がつくかもしれない。実現できたらスゴイと思う。

八谷和彦

八谷和彦(はちや・かずひこ)

アーティスト

八谷和彦

「なぜ?」と「どうやって?」を忘れないで。

全国高等学校デザイン選手権大会の審査にはじめて参加しましたが、とても楽しかったですし、高校生の皆さんの発表に取り組む真摯さにも感動しました。ただ、このテキストは今年エントリーした人たちや2020年にエントリーしようと思っている学生さんたちや先生が読むんですよね。と考えて、今年感じたことをあえて厳し目に書きます。

まず、皆さんプレゼンテーション上手いんですけど、なんというかパターン化しているようにも感じました。つまり、冒頭にちょっとした小芝居があって、そのあとでちょっと笑えて、みたいな。でも、本筋はそこにはないと思うのです。何組かに対しては「えっ?解決法がそれ?」とか「そこは調べてないんだ…」とかも思いました。問題への着眼点は良いものの、それを解消する方法は、簡単ではないはず。だって、それが簡単だったらすでに大人が解決してたりもするから。でもそうではない、高校生ならではの解決提案が見たいのです。そのときに「どのくらい説得力があるか?」は調べた時間や話を聞きにインタビューした人によって変わります。もちろんある種の荒唐無稽な提案にも良さはありますが、「こうやったら確かに実現できるかも!!」「よく調べてあるな!!」みたいなものは努力でなんとかできます。そういう点にも気を使っていただけたらと思います。(そして先生方にもそういうアドバイスをお願いします)

柿原優紀

柿原優紀(かきはらゆうき)

編集者・ローカルイベントディレクター/tarakusa株式会社 代表取締役

柿原優紀

社会課題を解決するデザイン、未来をより良くするデザインの根底にはいつもこの愛がある

人と違う発想を気にせずむしろ誇ること、どんなに行き詰まってもコピーはしないこと、気が済むまで考え尽くすこと、何度も壊してつくること、他者に伝えること。どれも私がデザイン科を専攻した大学時代に大切だと感じたことです。デザセンは高校生が参加する大会ですが、その全ての体験が詰まっている大会だと思います。
今年もファイナルに至るまでの審査にも参加させていただき、ズラリと並ぶパネルを読み込みました。困っている誰かを助けたい、誰かを喜ばせたい、そんな愛を感じるものばかり。社会課題を解決するデザイン、未来をより良くするデザインの根底にはいつもこの愛があるのだと、私は思います。

いくつかの案は、高校生と私との間にあるジェネレーションギャップのため一読しただけではよく分からず、何度か読み直してやっと理解が追いつくものでした。しかし、その感覚をとても嬉しく感じました。そして、このアイデアをもっと知りたい、直接聞いてみたいという気持ちがファイナルへの推薦理由となりました。

デザセンに挑戦するみなさんには、審査員の評価を基準にしてプレゼンするばかりではなく、審査員たちには想像もできない自分たちの世代らしい発想でいてほしいと思っています。この時代をみなさんの世代で生きるからこそ見えること、みなさんにしか見えないものがきっとあるはずだから。

夏目則子

夏目則子(なつめのりこ)

プランナー/東北芸術工科大学 企画構想学科 教授

夏目則子

自分たちの考えたアイデアは、本当に人の心を動かすのか、人の行動を変えるのか、検証してください。

すべての人が企画マインドを持てば、世界はもっとよくなるのに、もっと幸せになるのに、といつも感じています。企画とは、課題の本質を見つけ、アイデアのチカラで課題を解決するものだからです。高校生の皆さんが、今回の経験を通して、企画の大切さを感じてくれていれば嬉しく思います。

一方で、若い皆さんにもっと期待したいがゆえに、伝えたいこともあります。それは若いうちから、まとまり過ぎないで欲しいとうこと。正しい企画を考えよう、上手にプレゼンをしよう、といった考え方を一旦捨ててみてください。粗削りでも人をハッとさせる企画、たどたどしくても強く胸打つプレゼンがあります。もっと力強く、もっと伸び伸びと、もっと自由に、私たち大人を驚かせるアイデアを期待しています。

最後にアイデアを考える上で、大切にして欲しいと感じたことを3つ。まず、もっともっと視野を広げてください。課題の気づきは身近にあるかもしれませんが、そこにとどまることなく、その気づきをきっかけにして、世の中を見渡すことで、もっと重要な課題が見つかるはずです。2つ目に、表面的な事象に捉われず課題の本質を見つけてください。何か気付いた事象があったら、それはなぜなのか、何度も「なぜ?」を繰り返してみることがポイントです。そして最後に、自分たちの考えたアイデアは、本当に人の心を動かすのか、人の行動を変えるのか、検証してください。アイデアの先には必ず人がいるのです。

矢部寛明

矢部寛明(やべひろあき)

認定NPO法人底上げ 理事長 コミュニティデザイナー/東北芸術工科大学 コミュニティデザイン学科 講師

矢部寛明

自分で決めたことに対してはそこに責任感が生まれ、やりがいがみなぎる。

今回も、大学教員の端くれとして、名も無いNPO法人の代表として、ひとりの人間として高校生のプレゼンを見させていただきました。高校生が緊張しながらも堂々とプレゼンをする姿に深く感銘し、エネルギーをたくさんいただきました。内発的動機づけ理論というものがあります。自分で決めたことに対してはそこに責任感が生まれ、やりがいがみなぎる。その感覚はやがて充実感や幸福感につながっていくというものです。

今回のデザセン決勝に残ったみなさんは、別にやってもやらなくてもどちらでもいいものに対し、自分で決めて、自分で取り組んできた子たちだと思います。時に先生に突かれ、時に親に何の意味があるのかと言われ、それでも自らの意志を貫き通したのでしょう。その熱量が今回のプレゼンテーションではあふれていたように思います。自らやるぞ!と貫き通した意志。その意志は、結局自分も、周りも、社会もワクワクさせる火種なんです。その小さな火種を絶やすことなく持ち続けてほしい。どんな状況に身を置かれても大切にしてほしいと思います。やがてその火種が大きなものとなり、社会を今よりもよくするはずだから。

今度は、世界のどこかでみなさんと一緒に仕事をすることを夢見ながら筆を置くことにします。その日まで僕もしっかり動き続けます。