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すべての高校生にデザインマインドを|儀部佳織 教諭

デザセンは2018年度で25周年を迎えます。「社会をデザイン」する視点に着眼した大会として開催してきた四半世紀の成果を、指導教員や当時出場した高校生へのインタビューを通して発信していきます。

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インタビュー[6]でご紹介するのは、国分寺高等学校の儀部佳織先生です。2015年、2016年とデザセンへの初応募から2年にわたり決勝大会に高校生たちを導きました(うち2015年は優勝/文部科学大臣賞)。進学校で美術やデザインを指導する日々は、とても大変そうでしたが、「デザセンで学べる力は、高校生たちが社会に出てから基本的な力として必要になると思んです。」と語ってくださいました。その理由をさらにうかがいました。

 

初めて赴任した進学校。期待を胸にデザセンにチャレンジ

私は国分寺高校に赴任が決まった時、何かやりがいのある題材で生徒にアプローチしたいと思っていました。そこで、同じくらいの偏差値の進学校で教えている先生に紹介してもらったのがデザセンです。大会のDVDを見て、高校生がここまでのレベルで提案ができるのかと驚き、これは総合的な能力が問われると考えました。それまで進学校で教えたことはなかったので、「頭の良い子たちに教えたらすごいことになるのでは」と、大きな期待をもってチャレンジをしたのが始まりです。指導したのは、1年生の1学期、美術1の選択者100名ほど。実際に指導してみると、意外にも他の高校の子と変わらず、偏差値の高い子でも答えのない課題に取り組むのが苦手なんだと感じました。

 

「ダメだし先生」と呼ばれた1年目

指導する際に心がけていたのは、いいなと思う提案でも必ず疑問をぶつけ、考えが及んでいない箇所を指摘すること。「いいね」と言うのは簡単ですが、そうするとそこで思考が止まってしまうんです。生徒は「あ、これでいいんだ」と線を引いてそれ以上考えず、うまくまとめる作業に入ってしまうんですね。ですからどんなにいいアイデアでも細く見て、必ずダメな所を見つけようと頑張りました。全員とそんなやり取りを続けていたので「ダメだし先生」と呼ばれて嫌がられていましたね(笑)。1年目は反発が強く、特に男子生徒はやり直しが5、6回続くと、焦りが怒りに変わってきました。直感的には面白くないアイデアだとわかるけれど、私も何が良くないのかうまく説明しきれない状況で、生徒に「なんでだよ!?」と激昂されたこともありましたが、負けない気持ちで向き合い続けたんです。すると、授業で最後のプレゼンが終わった時、その生徒が私に「先生、僕が間違ってました」と謝ってきました。彼らには彼らのこだわりがあって、それは譲れないものだったのだけど、他の生徒のプレゼンや自分たちのプレゼンに対する反応を見て「やっぱり僕たちの提案、何か変だったな」と感じたみたいなんです。良いものを判断する価値観は持っているので、客観的に提案を見る機会が彼らを成長させたのかな、と思っています。

 

3人チームの可能性を感じた『リアル人生ゲーム』

2015年に初出場で初優勝をいただいた『リアル人生ゲーム』も、アイデア出しの段階では他の生徒たち同様に苦労して絞り出した提案です。私も生徒も初参加だったのでプレゼンの準備も手探り状態でした。校内プレゼンで他の先生たちから意見をいただき、提案の魅力をより効果的に伝えるために、残り1週間という時期に出来上がったシナリオを破棄したことは1番大きな出来事だったかもしれません。「このままじゃ伝わらない」と、生徒たちが頑張って新しくプレゼンの形を作っていきました。私の手を離れて自分たちで過去の動画を検証し、「良いプレゼンとは?」と分析していったようです。高校1年生にはきつい課題ですが、彼女たちは常に笑いが絶えない雰囲気の中で思っていることを言い合いながら、今までにないものをつくり上げていきました。私には、キャラクターの違う子たちだからこそ生まれた化学反応のように見えました。そんなデザセンを経験し私の教え方にも変化がありました。”3人チームの可能性” を感じ、普段の授業でも大きめのポスター制作などを3人でやらせるというのを続けているんです。個別の評価は難しいところですが、違うアイデアに触れること、協力して1つの作品を作ることは学びが多く、生徒からも好評です。

デザセン2015 決勝大会で優勝(文部科学大臣賞)を受賞した国分寺高等学校の『リアル人生ゲーム』プレゼンテーション風景

 

進学校だからこそ、デザインマインドを育みたい

高校教育において美術は授業数削減の対象であり、進学校であればあるほど受験科目優先で軽視されがちな科目です。でも私は、進学校だからこそ美術は選択ではなく全員にやってほしいと思っているんです。理由は、進学校の生徒は卒業後、会社の上層部で決定権を持つ存在になる可能性が高いことが挙げられます。ものづくりに限らずあらゆるプロジェクトはデザインが施されていますが、決定者がデザインマインドを持つことで、個人の趣味思考を超え「社会がよりよく変わる方」を選択できると思うのです。ですから、高校生のうちにデザインの感性を身につけてほしい。知識のインプットとアウトプットをするだけでは AI と何ら変わりません。社会に目を向け、答えのない課題に取り組むことが総合的な思考力と表現力を育み、よりよい社会づくりにつながっていくと考えています。そういった面で、デザセンは優れた教材です。これからは、美術だけでなく総合的学習として多くの先生との協力体制のもとで、またチャレンジしてみたいですね。

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取材日:2018年6月11日
ライター:上林晃子
撮影:志鎌康平

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