自分で考え抜くプロセスが財産|久間美里 教諭
デザセンは2018年度で25周年を迎えます。「社会をデザイン」する視点に着眼した大会として開催してきた四半世紀の成果を、指導教員や当時出場した高校生へのインタビューを通して発信していきます。
—————
インタビュー[5]でご紹介するのは、神戸市立科学技術高等学校の久間美里先生です。インタビュー[3]でご紹介した新山先生に、高校時代にデザセンの指導をうけて『GALLARY BAG』(デザセン2016 準優勝)で決勝大会に出場。現在、インタビュー[4]でご紹介した水野里奈先生とともに、母校のデザセン指導教員となられています。「自分で考え抜くプロセスが、生徒たち自身の財産」と語る久間先生にお話を伺いました。
数字に表れない新たな価値観
私はものづくりや化学を学びたくてこの学校に入学し、目に見えない元素や物質の変化、量を測定することを大事に学んでいました。デッサンもできなかったし、アートやデザインとは縁遠い生徒だったと思います。
高校3年生の時、指導教員だった新山先生から声をかけていただきデザセンに参加。デザセンに出す企画のために先生とノートをやり取りする中で印象深かったのは、私がこれまで向き合ってきた「数値」や「記号」には表すことができないアイデアや方向性に対して、先生が「これ面白いな」「きれいだな」と感想をくださったことです。定量的に物事を見つめることと共存するように生きていた高校時代の私にとって、それは新しい価値観でした。
ものづくりや化学を学び研究を続けた先には、それによって出来上がる製品があり、そしてその製品を使う人がいます。私たちはその使う人の「いいな」や「ワクワク」を引き出せる製品を作らないといけないんだということに気がつきました。そんな感覚から、私は化学だけでなく新しいこともどんどん学びたいと思うようになりました。デザセンを通して学ぶ楽しさを知り、教育の道へ進むことにしたんです。
教師となって母校へ
6年間、中学校で技術家庭科の技術分野を教えていましたが、母校でデザセンに関わりたいという想いが芽生え、今は本校の科学工学科の副担任と剣道部の顧問をしています。昨年は剣道部の有志でデザセンに参加。指導教員の立場になって気づいたのは、デザセンは高校生が進学した後のキャリアデザインにもつながるということです。
その一つの事例が、2017年大会に入選した本校生徒の提案『人生のお金を覗き見しよう』です。この提案は、高卒者の就職に関する問題や奨学金問題、ライフステージの変化などで人が様々な岐路にたったときに、自分の将来を「お金という側面」から自分の力でイメージするためのシュミレーションゲームなのですが、このアイデアを提案した生徒は当時、高校卒業後就職すべきか進学すべきか自分の進路にすごく悩みながらこのゲームを作り出していました。そして、その過程で自分が理想とする人生設計が、就職よりも大学進学の方が合っているということに気がつきました。自分がやりたいことを考え形にしていく経験が、就職や進学先でのミスマッチを防ぐことにもつながると感じます。
現代はスマートフォンなどで簡単に大量の情報を手に入れることができます。しかし一方で生徒たちは現実的なラインで発想を切ってしまう傾向があり、「実現は無理だからこれ以上考えてもムダ」となりやすいです。でも今世の中に出ている色々な製品は、無理に思えることでも考えを突き詰めて、最終的には何らかの可能性が集まり出来上がったものが多いと思うのです。
自分で考え抜くプロセスが財産
デザインされたアイデアを作品として最終的に決着させることも教育目的としては重要ですが、それだけでなく、諦めずに「自分で考え抜く」という思考のプロセスが、生徒たち自身の財産になっていくことを改めて感じています。
生徒たちはこの先、「できないもの」の可能性をこれまで以上に研究していくと思いますが、デザインを通じてものごとを広い視野で捉え学べるデザセンは、とてもいい機会になっていると思います。
————–
取材日:2018年3月6日
ライター:上林晃子
写真:志鎌康平