入賞

優勝[文部科学大臣賞]

『ワンチャンス』

淀商業高等学校 /大阪府
土居 小華さん、新井 愛花さん、山本 優衣さん

準優勝

『音楽で、繋げる』

筑波大学附属駒場高等学校/東京都
伊藤 和生さん、今井 龍さん、田中 喜大さん

入賞

『知識の連鎖』

科学技術高等学校 /兵庫県
早川 爽音さん、藤本 咲希さん

入賞

『本農場』

九州産業大学付属九州高等学校/福岡県
メンバー:中村 ふくさん、江崎 あみさん、末松 優空さん

審査講評

中山ダイスケ

中山ダイスケ(なかやま・だいすけ)

アーティスト、アートディレクター/東北芸術工科大学学長 ◎審査員長

中山ダイスケ

 今回の「デザセン2023」もレベルが高く、決勝に残った10チームとも表現力が豊かで、どの提案も面白く、今の時代を感じることができました。また、映像を使ってのプレゼンテーションが巧みで心を掴まれたものばかりでした。
 今回の特徴として、10提案中5提案が高校生の身近な日常から出た疑問や不安、違和感から生まれた提案だったと思います。そして、全ての提案に共通しているのは、出発点が何気ない気づきや世の中への違和感だったと思います。
 今後、皆さんが世の中で仕事をするときに役に立つのが、この『違和感』です。
「なんかおかしい、嫌い、辛い・・・」などのネガティブなところにこそチャンスがあります。「おいしくないものに出会ったらおいしくする方法を考える」、「角があたって痛いと思ったら丸く削ってみる」など、デザインするとはそのような仕事だと思います。芸術作品を突き詰めていくこととは少し違いますが、デザインというものはこのような違和感をチャンスに広げていくことなのだと思います。
 今後、大学に進学したり社会に出たりとそれぞれが違う方面へ進んでいくかと思いますが、「ここが問題だ」と課題を発見できる目線を持ったまま大人になってください。世の中には、教育、法律、医学など様々な分野がありますが、どの分野においてもこれまでの当たり前は通用しません。もっと良くなる方法、もっと多くの人に伝わる方法をたくさん考えていただきたいです。

 ぜひ楽しい世の中の一員になって面白い未来を作っていってください。

酒井 淳平

酒井 淳平(さかい・じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 キャリア教育部長

酒井 淳平

 高校生が見つけ出した課題には身近な学校生活の課題から、社会全体の大きな課題まで様々なものがありましたが、「解決したい!」という強い思いがこめられている点がすべてに共通していたように思います。今回のデザセンでは、「~したい」という意思「WILL」からすべてが始まるということを高校生に教えられたように感じています。
 素晴らしい提案が多く審査は難航しましたが、受賞作品はアイデアの活用範囲が広く、本当に世界を変えるかもしれないというワクワク感をより感じさせてくれました。課題とはあるべき状態と現状の差ですが、課題解決に向けて行動しようとするのは人です。デザセンでは課題を発見して、現状をふまえてワクワクする未来を描く力が重要でした。これはこれからの時代に求められる力に他なりません。
 審査員として、1次審査や2次審査での応募用紙も見せていただきましたが、高校生たちの成長する姿にも心打たれました。一次審査から決勝大会まで、自らのアイデアを磨き続けていきました。高校生が経験したこのプロセスは、真の学びであり、将来への希望を与えるものとなるでしょう。学び続けることの必要性が言われていますが、それを体現されたみなさんのこれからの活躍や、より良い未来を創っていく姿が今から楽しみです。

 講評を書く中で、審査の過程をふりかえると、自分に矢印が向きます。教員として、次世代を担う生徒たちの情熱を育てるような学校作りをこれからも探究していきたいです。

大橋マキ

大橋マキ(おおはし・まき)

IFA認定アロマセラピスト/一般社団法人はっぷ代表

大橋マキ

 大変光栄なことに今年も審査員としてデザセンに参加させていただきました。今回もアイディアすることへの愛、アイディアする人たちへの愛、アイディアへの愛が
 溢れた素晴らしい決勝大会でした。今年は高校生の皆さんの身の回りのことに関連した提案が多かったように思います。新しい学び方の提案、健康で快適な学校環境のための提案、大好きな本や音楽、地元をもっと楽しく発信する提案。大人には思いもよらない課題発見を通じて今という時代を見せていただきましたし、自分たちの日常をアイディアによってより良くしていくんだという情熱を頼もしく思います。個人的には音楽が好きなので、新しい音楽体験を提案してくれたサウンドマップにわくわくしました。
 「みなさんが日常で感じる違和感をチャンスに変えることがデザイン」。中山ダイスケ学長のおわりの言葉にもありましたが、日々の小さな違和感をアイディアによって変革することを楽しむ。考えてみたら、生きることそのものですね!高校生のみなさんのチャレンジに心から感謝をいたします。今回のチャレンジをもっともっと掘り下げ、広げて、たくさんの人たちを巻き込みながら実現してください。皆さんのアイディアに実社会で出会えることを楽しみにしています。ありがとうございました。そして、優勝の『Barcode train』。デザセンらしい遊び心から生まれた楽しい提案でしたね!アイデアするわくわくの原点に立ち返らせてくれました。
 
 中山ダイスケ学長のお話にもありましたが、「正解のないかもしれないことに対し、きょろきょろとよそ見をしながら、楽しく社会を変えていって欲しい」。高校生に希望を見せていただいた決勝大会でした。素晴らしい熱戦をありがとうございました!

柚木泰彦

柚木泰彦(ゆのき・やすひこ)

東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科教授、高大連携推進部長

柚木泰彦

 2022年度から全国の高等学校で全面実施されている「総合的な探究の時間」ですが、各校それぞれの学校文化をベースに特徴あるプログラムに編成され、軌道に乗りつつある現在の状況かと思います。そうした中で、今年も600を越えるチームからの応募があり、一次審査から決勝大会まで皆さんの挑戦を見届けてきました。
 一次審査および二次審査では、高校生だからこその立ち位置から社会課題に対する着眼点を柔軟に見出しているか、自分たち自身が活動できることへテーマを引き寄せられているか、試行錯誤しながらも粘り強くどれくらい具体的な行動に移せているか、といったポイントが次の選考に進めるかどうかの分かれ目となってきたように思います。
 上記の視点で、決勝大会に辿り着いた10校のチームは取り組み量が多く、思考の深さがあり、授業の枠を越えて主体的に活動を進めてきた様子が伝わってきました。ですので、今年の決勝大会プレゼンテーションでは、出場したすべてのチームの提案が魅力的で、甲乙つけ難い充実の内容でした。最後は、皆の共感を得られる内容にどのくらい導けているか、昇華できているかのほんの僅かな差だったと振り返ります。
 質疑の時間の充実ぶりも本大会では特徴的でした。「主体的、対話的で深い学び」を通した対話力が鍛えられてきている証でしょうか。オンラインと感じさせないほど熱い議論の場がつくられていたと感じます。

 最後になりますが、チームで協働することにより身についた力は、この先、皆さんが新たな社会課題の解決に向かう時にも活かし続けられる一生の財産です。これからも、世の中の皆が笑顔になれる方法を考え、仲間と力を合わせて行動し続けてほしいと願っています。

緑川岳志

緑川岳志(みどりかわ・たけし)

東北芸術工科大学プ企画構想学科教授

緑川岳志

 2023年度のデザセンの審査員として、予選会の審査から決勝大会の最終審査まで行いました。
 予選会の段階でも10作品に絞り込むことが難しく、審査が難航しました。私は、現実的な課題発見力とともに、それが10年後くらいに実現できる想定で、発想力や企画構想力のある作品を選定いたしました。決勝大会では、予選会での内容をさらにブラッシュアップできたことに加えて、わかりやすく伝える力を兼ね備えた作品で私達審査員、およびライブ配信のオーディエンスを圧倒してくれました。
 実は今回優勝に輝いた大阪府立淀商業高等学校の「ワンチャンス」という作品は、予選会では私は決勝候補として選定していませんでした。課題が身近すぎるものの、理想論だけがひとり歩きして、実装が難しいだろうという判断でした。しかし決勝大会のプレゼン映像を拝見して、浸透するための方法が具体的に映像として提示され、また飼い主同士のコミュニケーションツールになるというしかけまで設計ができており、感動し涙腺が緩みました。ネーミングもスマートでわかりやすく、丁寧に企画が設計できていたことを評価いたしました。筑波大付属駒場高等学校の「音楽で、繋げる」についても音楽の追体験というイメージが湧きませんでしたが、プレゼンでは使用ディテールが描かれており、新しい音楽鑑賞のあり方を提示できた素晴らしい作品に仕上がりました。

 今年度は、課題発見力、構想力に合わせて、その表現力も大きな評価ポイントになっていました。

矢部寛明

矢部寛明(やべ・ひろあき)

認定NPO法人底上げ 理事長 コミュニティデザイナー/東北芸術工科大学 コミュニティデザイン学科 准教授

矢部寛明

 今年もたくさん悩ませていただきました。本当に最初から最後まで悩みっぱなしでした。
 僕自身は評価というものが得意ではありません。ただ、評価しない限り絞れないという矛盾を抱えながらの審査でした。どのアイディアも等身大の高校生から見る世界の課題に対し、真正面からアイディアを考えている素晴らしいものだと思いました。多くの応募本当にありがとうございます。ひとつひとつ丁寧に読ませていただきました。
 その中でファイナルに残ったチームに共通していたことは、課題を俯瞰的に捉え、斬新なアディアでそれに向かう姿勢が素晴らしと思いました。そしてそのアイディアを伝えるための動画のクオリティがとても高かったです。特に今回受賞した、「ワンチャンス」「らくーラ」は動画のクオリティの高さもさることながら、相手に共感を与えることができていたように思います。また「音楽で、繋げる」は理論的にしっかりと説明してくれて納得感がありました。そんなこともあり、本当に審査は苦労しました。もちろん受賞したチームは喜んでもらいたいのですが、逆に受賞しなかったチームも気落ちすることなく、胸を張って欲しいと思います。
 みなさんのアイディアや経験は一過性にとどまることなく社会を変えていくエンジンになる。僕はそう信じています。社会は課題に溢れています。一方で、解決しうるアイディアも多く存在します。思いを形にすべく引き続き歩み続けて欲しいと思います。

 最後にデンマークにあるデザインミュージアムの入り口に書いてある言葉を贈りたいと思います。
 デザインは私たちの身の回りに現れ、私たちの行動に影響を与える。
 デザインは私たちの歴史と伝統を作る。
 デザインは新しい機会と未来への希望を生み出す。

 デザインとは、生き方そのものだと思います。そのデザインをアップグレードしていくことが、私たちの使命なのかもしれません。次は社会のどこかでみなさんと会える日を楽しみにしています。

トミヤマユキコ

トミヤマユキコ(とみやま・ゆきこ)

東北芸術工科大学 文芸学科 准教授

トミヤマユキコ

 わたしたちの社会では、いまどんなことが問題になっているか。それに対して、高校生がどんな解決策を提案できるか。——デザセンの問いはとてもシンプルですが、この問いに挑もうとする高校生のアイデアは多種多様です。
 今年のデザセンは例年にも増してカラフルでした。デジタル技術を用いた最先端のアイデアがあるかと思えば、土や植物に触れるところからはじまるアナログなアイデアもありました。自分たちの解決しようとしている問題にフィットするものが何かを考え抜いた結果だと思いますが、実はこれ、そんなに簡単なことじゃないんですよね。なぜって、学校の学びの中で「こうしておけば、まあ無難だろう」というところで思考停止してしまう(その結果、みんな似たり寄ったりになってしまう)ことなんていくらでもあって、その先に進むのはある意味「めんどくさい」ことだからです。
 先日、宮崎駿監督のドキュメンタリーを見ていたら、「めんどくさい」を連呼しながら作業をしていました。天才と呼ばれる人物でも、めんどくさいんだ!と感動しました。めんどくささなんて、とっくに克服していると思っていましたが、全然そんなことありませんでした。めんどくさいとうまく共存することで、見えてくる世界がある。今回決勝に残ったチームもまた、めんどくささとの共存をがんばったんじゃないかなと思います。そしてそれは、この先の人生で、きっと糧になる経験だろうと思います。

石沢 惠理

石沢 惠理(いしざわ・えり)

東北芸術工科大学 芸術学部 美術科 総合美術コース 専任講師

石沢 惠理

 「デザセン」にエントリーされたみなさん、そして決、勝戦で発表してくれた10チームの皆さん、本当に素晴らしい時間をありがとうございました。決勝戦では612のエントリーから勝ち上がった10チームということもあり、企画内容もさることながら内容を伝える映像編集にも力を入れていて一視聴者としてとても楽ませていただきました。
 今年度のチームは、身の回りの環境から課題を見つけて、丁寧に掘り下げている点が印象的でした。さらに、印象的だったのは審査員の先生方とのやりとりです!その熱量から皆さんがこれまでいかに熱く探求に取り組んできたのかが伝わってきました。
 私は、「デザセン」で重要なポイントは、実践したこととどう向き合うかだと考えています。すごい調べ物をしても、実践で得た事実には敵わないことがあります。今年の発表の中には、「検証のために必要な数がものすごく多かった。」、「提案したがあまり受けいれられなかった。」など、想定していたこととギャップがあったり、マイナスの結果だったという内容もありました。しかし、皆さんはそこで諦めず、試行錯誤していました。想定とは違っても粘り強くそのテーマに取り組み、結果をバネにして新しい展開を考えることで、予想しなかった面白さを手繰り寄せていたと思います。皆さんの姿から探求することの一番の楽しさを教えてもらいました。
 この経験は、なかなかないものだと思うので、今後の人生の中でちょいちょい思い出して、振り返って欲しいなと思いました。
 貴重な機会を本当にありがとうございました。