『軌跡のアーカイブ』

神戸市立科学技術高等学校(兵庫県)
迫田 華菜(2年)/中野里奈(3年)/鈴木穂乃香(2年) 指導教員:新山浩 教諭

一つとして同じもののない”人生の軌跡”は、私たちに色々なことを教えてくれる。

思い出を写真やビデオで記録することは、当たり前のように行われていますが、それらは断片的な記録で、人生を連続して振り返ることはできません。人生や経験を、その人の「動線(=人や物が移動する方向や頻度を示す線)」が作る軌跡を使って表すと、それぞれ形の異なる、世界にひとつしかないものができるのではないかと考えました。人の動線を地図上に書き入れ、できた軌跡を取り出すと、それは思いがけず美しいものでした。これを様々なデザインに展開して、人生の節目に使うことを提案します。例えば、定年退職を迎えるお父さんに、仕事で世界を駆け巡ってきた軌跡を記念に贈ったり、結婚する2人の軌跡がひとつになるまでをエンゲージリングに刻んだりします。
動線は携帯電話などに搭載されたGPS機能を使って記録します。また、軌跡をQRコードのように読み込んで、様々な情報を引き出せるようにします。東日本大震災以後、街並みを写真や動画のデータで遺そうというプロジェクトが進んでいます。両親や祖父母の見ただろう昔の風景も、軌跡に触れることで見ることができるようになります。
私たちは一人ひとりが異なる人生を送っています。出会いや別れ、泣いた場所、笑った場所、そんな自分だけの軌跡を後世に遺していくと、これは新しい時代の家系図になります。これを人類のアーカイブとして蓄積していくと、人の密度や移動を通して環境や防災、政治や民族といった観点から、新しい研究が進むかもしれません。
人と人との繋がりが希薄になっている現在の日本の社会を表す言葉に「無縁社会」というものがあります。でも、軌跡の交点や接点をたどると、関係する人の数は天文学的に増えていきます。お互いがどこかで繋がっているかもしれず、世の中に無縁の人などいないのかもしれません。人と人とを繋ぐ軌跡は、これからも私たちを導いてくれるに違いありません。

『軌跡のアーカイブ』
『軌跡のアーカイブ』

二次審査時の提案パネル  PDFダウンロード

受賞者の声

迫田華菜 Kana Sakota

迫田華菜 Kana Sakota

決勝大会進出が決まったときには喜びと驚きでした。練習とリハーサルを繰り返し、これはいけるのではないかと思うようになりました。しかし決勝大会では他校の圧倒的なプレゼンの前に多くの学ぶことがありました。表彰式で流した涙は三位になれた喜びと、優勝できなかった悔しさが入り交じったものだったと思います。来年、リベンジします!

中野里奈 Rina Nakano

中野里奈 Rina Nakano

自分たちのアイデアを人に伝える難しさ、どうしたらもっと分かりやすくプレゼンできるのか、シナリオの言葉選び、読み方、動きなど時間をかけて考えました。本番では緊張しましたが、一番心のこもったプレゼンができたと思います。全国から集まった他のチームと仲良くなり、大学のスタッフのみなさんにも良くしてもらい、審査員の有名な先生とも直接お話しできた、人との出会いの4日間でした。私は改めて自分のやりたいこと、もっともっとデザインや建築の勉強をしたいと感じ、頑張ろうと思いました。

鈴木穂乃香 Honoka Suzuki

鈴木穂乃香 Honoka Suzuki

決勝大会までの間、ずっと先輩と友人に背中を押されて頑張ってきました。決勝で三位に入賞できて本当にうれしかったです。これも数ヶ月間、ご指導いただいた先生やサポートの方々、何よりチームの2人の力があってのものだと思います。この体験を通して、これからも何事にもチャレンジする精神を持ち続けていきたいと思います。来年も決勝大会に出場して優勝したいです。

新山浩 教諭 Hiroshi Niiyama

新山浩 教諭 Hiroshi Niiyama

これまでデザインは、利潤獲得競争、ひたすらつかの間の消費のための色と形の流行装置として役割を果してきました。近年『デザイン』は人間の感性、生活スタイル、様々な生活上の価値観を提案する媒体としての役割を得ました。ここ20年ほどは、デザインの概念が拡散し、デザイナーの居場所が多様化するなか、特に顕著な傾向は(意外性)や(驚き)を持ち込んで日常の惰性を解体し、新たな活力を生活に注ぎ込むという流れです。これは過去の決勝大会での提案と軽妙にリンクしていて、とっても興味深いものです。
閉塞、枯渇した日常に裂け目を開け、高校生からのさわやかな風と清涼、潤いの水を注ぎ込み、やがては大きな流れとなって現実を着実に変えようという試みは、近年のデザセンの一つの主題のようにも思います。そんなデザセンスピリッツを感じとり、チャレンジ精神を持ち続ける生徒をこれからも一人でも多く輩出していきたいと思います。大会運営にご尽力いただいている関係者の皆様には感謝の気持ちを申し上げます。